デデキントゼータ関数(デデキントゼータかんすう、英: Dedekind's zeta function)とは、

代数体 K に対して

で表される関数のことをいう。ただし、和は K の整イデアル全てを動き、 N a {\displaystyle \scriptstyle N{\mathfrak {a}}} は整イデアル a {\displaystyle {\mathfrak {a}}} のノルムである。従って、デデキントゼータ関数は、ヘッケのL関数の特別な場合である。 特に、K が有理数体のとき、リーマンゼータ関数になる。

与えられた整数 n に対して、ノルムが n である整イデアルは有限個しかなく、ノルムは正整数であるので、 デデキントゼータ関数は、

と、ディリクレ級数の形で表すことが出来る。

デデキントゼータ関数は、 Re   s > 1 {\displaystyle \scriptstyle \operatorname {Re} \ s>1} に対して、絶対かつ一様収束する。従って、 Re   s > 1 {\displaystyle \scriptstyle \operatorname {Re} \ s>1} で、 ζ K ( s ) {\displaystyle \zeta _{K}(s)} は正則関数である。

関数等式

n 次代数体 K に対して、デデキントゼータ関数は次の関数等式を満たす:

ただし、 r 1 ,   2 r 2 {\displaystyle r_{1},\ 2r_{2}} K の実共役体、虚共役体の個数とする。

特に、K を有理数体にすれば、よく知られたリーマンゼータ関数の関数等式

が成立する。

さらに、 ζ K ( s ) {\displaystyle \zeta _{K}(s)} に対する、代数体 K の完備ゼータ関数を

とおけば、関数等式

を満たし、 C { 1 } {\displaystyle \scriptstyle \mathbb {C} \setminus \{1\}} に解析接続できる。従って、 ζ K ( s ) {\displaystyle \zeta _{K}(s)} C { 1 } {\displaystyle \scriptstyle \mathbb {C} \setminus \{1\}} まで解析接続できる。

解析接続できない s = 1 {\displaystyle s=1} では、デデキントゼータ関数は 1 位の極で、留数は

である。つまり、

である。

ただし、 r 1 ,   2 r 2 {\displaystyle r_{1},\ 2r_{2}} K の実共役体、虚共役体の個数、w は、K に含まれる 1 のベキ根の個数、 h K ,   R {\displaystyle h_{K},\ R} は、それぞれ K の類数、単数基準とする。

デデキントゼータ関数の零点

(1) 自明な零点

ζ K ( s ) {\displaystyle \zeta _{K}(s)} ζ K ( 1 s ) {\displaystyle \zeta _{K}(1-s)} との関係式から自明な零点を求めることができる。
  • K が総実体のとき
    任意の正整数 k に対して、 ζ K ( 2 k ) = 0 {\displaystyle \zeta _{K}(-2k)=0}
  • K が総実体ではないとき
    任意の正整数 k に対して、 ζ K ( k ) = 0 {\displaystyle \zeta _{K}(-k)=0}

(2) 非自明な零点

s が、 Re   s > 0 {\displaystyle \scriptstyle \operatorname {Re} \ s>0} である零点とすれば、 R s   s = 1 / 2 {\displaystyle \scriptstyle Rs\ s=1/2} であると予想されている。これを拡張されたリーマン予想という。リーマンゼータ関数に対するリーマン予想をその特別な場合として含む予想であり、現在でも未解決である。

オイラー積

任意の整イデアルは、素イデアルの積で表すことができるので、デデキントゼータ関数は、以下のオイラー積表示を持つ。

Re   s > 1 {\displaystyle \scriptstyle \operatorname {Re} \ s>1} のとき、

ただし、積は K の素イデアル全てを動くものとする。

ディリクレのL関数との関係

デデキントゼータ関数のオイラー積表示により、素イデアルのノルムの値からデデキントゼータ関数を具体的に計算することができる。素イデアルのノルムは、有理素数の素イデアル分解の結果から求めることができるが、K が一般の代数体の場合、素イデアル分解が複雑であるので、具体的に計算することは大変難しい。 しかし、K が二次体または円分体であれば、素イデアル分解の様子がよく分かっているので、オイラー積を計算することができ、その結果、デデキントゼータ関数をディリクレのL関数を用いて表現することができることが知られている。

(1) K が二次体の場合

K の判別式を D とし、 χ D {\displaystyle \chi _{D}} を法 D に関するクロネッカー指標とすると、

が成立する。

(2) K が円分体の場合

K = Q ( ζ m ) {\displaystyle \scriptstyle K=\mathbb {Q} (\zeta _{m})} ( m > 2 ) {\displaystyle (m>2)} とする。

が成立する。ここで、最初の積は、法 m に関する原始的ディリクレ指標全てにわたる積とし、二番目の積は、法 m に関する原始的ディリクレ指標のうち、単位指標以外のもの全てにわたる積である。

さらに、任意の有理数体のアーベル拡大体 K は、ある円分体の部分体であるので(クロネッカー=ウェーバーの定理)、上のことから、 ζ K ( s ) {\displaystyle \zeta _{K}(s)} は、いくつかのディリクレL関数の積で表すことができる。

応用例

デデキントゼータ関数を用いた応用例として、2つの平方数の和で表す方法の数を求めてみることにする。

これはヤコビの二平方定理として知られ、いろいろな証明方法が知られているが(ヤコビの二平方定理の証明を参照)、ここでは、デデキントゼータ関数を使った方法で証明してみる。

K = Q ( 1 ) {\displaystyle \scriptstyle K=\mathbb {Q} ({\sqrt {-1}})} とおき、K 上のデデキントゼータ関数 ζ K ( s ) {\displaystyle \zeta _{K}(s)} を二通りの方法で計算する。

まずは、ディリクレ級数の形でデデキントゼータ関数を表し、その係数を求めてみる。

とおくと、

F n = 1 4 # { ( a , b ) | a 2 b 2 = n ,   a ,   b Z } {\displaystyle F_{n}={\frac {1}{4}}\#\{(a,b)|a^{2} b^{2}=n,\ a,\ b\in \mathbb {Z} \}}

が成立するので、 F n {\displaystyle F_{n}} は、n を2つの平方数の和で表す方法の数の4倍に等しい。慣例に従って、2つの平方数の和で表す方法の数を r 2 ( n ) {\displaystyle r_{2}(n)} と書くと、

と表される。

さて、K は二次体であるので、 ζ K ( s ) {\displaystyle \zeta _{K}(s)} は、リーマンゼータ関数と、クロネッカー指標からなるディリクレL関数の積で表される。 K = Q ( 1 ) {\displaystyle \scriptstyle K=\mathbb {Q} ({\sqrt {-1}})} のクロネッカー指標を具体的に求めることにより、

が成立する。二通りに表された ζ K ( s ) {\displaystyle \zeta _{K}(s)} を比較することにより、

が成立する。これはヤコビの二平方定理に他ならない。

さらなる応用として、K を別の二次体 ( Q ( 2 ) ,   Q ( 3 ) {\displaystyle \scriptstyle (\mathbb {Q} ({\sqrt {-2}}),\ \mathbb {Q} ({\sqrt {-3}})} にすることで、上と同じ方法で、 x 2 2 y 2 ,   x 2 3 y 2 {\displaystyle \scriptstyle x^{2} 2y^{2},\ x^{2} 3y^{2}} の形での表し方の数を求めることができる。

注釈

参考文献

  • ノイキルヒ, J. 著、足立恒雄(監修)・梅垣敦紀 訳『代数的整数論』シュプリンガー・フェアラーク東京、東京、2003年。 

関連項目

  • 代数体
  • 代数的整数論
  • リーマンゼータ関数

ゼータ関数 Desmos

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